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日本外傷学会支援多施設臨床研究全国共通プロトコール


日本外傷学会会員各位

将来計画委員会では会員および会員施設による多施設研究の支援をしています。
この度、「外傷患者における冷汗の意義」に関して研究参加の応募を開始しましたので案内申し上げます。

平成24年9月10日
一般社団法人 日本外傷学会
将来計画委員会
委 員 長  久志本 成樹


外傷患者における冷汗の意義

研究計画書



  1. 研究の背景と目的
     外傷患者において,皮膚所見はショックを早期に認知するための指標としてJATECTMでも重視されている1)が,それを検討した報告は少ない。研究者は第25回日本外傷学会において,冷汗はショックを早期に認知するための指標とはなりにくいが,ショックを離脱するために必要なinterventionの予測因子になりえることを報告した2)。冷汗は急性心筋梗塞における随伴症状として最もオッズ比が高かったとする報告があり3),救急外来におけるトリアージの客観的指標ともなっている。また,外科系ICUにおいて主観的に医師が"四肢の冷たい感じ"があると判断した場合は有意に血清乳酸値が高かったとする報告がある4)。そこで皮膚所見の中でも比較的観察が容易で客観性が高いと思われる冷汗がショック患者において,迅速かつ的確な外傷初期診療を進めることを外傷チーム全体が共有するための指標となりえるかを前向き観察研究として検討することを目的とする。


  2. 研究の方法
    【研究デザイン】
    多施設共同前向き観察研究
    【研究期間】
     倫理審査結果通知日~2014年9月(研究開始日より2年間の予定)
    【研究対象】
     対象予定人数:2,000例以上
     対象年齢:全年齢
     対象性別:問わず
     研究該当者の条件:日本外傷学会が定める外傷専門医研修施設条件を満たすかそれに準ずる施設に救急搬送された全ての外傷患者を対象とする。なお,救急車,ドクターカー,ドクターヘリ等の搬送手段は問わない。
     研究非該当者の条件:来院時心肺停止, 熱傷, 転院搬送症例を除外する。
    <サンプルサイズの設計>
     回帰モデル,特にロジステック回帰分析を用いて解析する際に必要なサンプルサイズを{(独立変数の数×10)÷目的変数の少ない方が起こる確率}以上と見積もった場合,独立変数の数を10,interventionを要した症例の割合を5%と仮定し2,000例以上となる。研究者がretrospectiveに行った先行研究においては,サンプルサイズが564,独立変数の数が6,interventionを要した症例が10.5%(目的変数の少ない方が起こる確率)であった。
    観察項目:年齢,性別,受傷機転,来院時における脈拍数, 収縮期血圧, 呼吸数,GCS, 冷汗の有無とその部位,来院時のbase excessおよび 血中乳酸値,出血性ショックあるいは閉塞性ショックに対するintervention(以下単にinterventionと記す)の有無とその種類,AIS,ISS,AIS4点以上の重症頭部外傷の有無,脊髄損傷の有無とする。これらの観察項目は別紙に示したデータ入力シートに入力する。主な観察項目の定義を以下に示す。
     冷汗ありとは「皮膚が冷たく湿っている」状態とし,冷汗の有無はprimary surveyにおいて,その場の初療担当医2人が独立して所見をとる。この際,観察者の一方は体の右側,一方は左側をそれぞれ顔面,前胸部,前腕部,手掌の4箇所において評価する。本研究においては冷汗の程度は問わないこととし,2人の観察者が上記4箇所の観察部位において主観的に冷汗の有無を判断し別々に記載する。 それにより,冷汗の有無につき見かけ上の一致率,κ値を算出しておく。
     次に,interventionとは出血性ショックあるいは閉塞性ショックを離脱するための侵襲的処置/手術としての開胸または開腹止血術,経カテーテル的動脈塞栓術,骨盤骨折に対する創外固定または後腹膜腔ガーゼパッキング, 外出血に対する止血術,胸腔ドレナージ,心嚢穿刺および心膜開窓術の8つと定義する。これらのinterventionはprimary surveyにおける「蘇生」としての位置付けであり,血管造影のみや試験開腹術,陽圧換気開始時における胸腔ドレーンの挿入等は含めない。なお,これらのinterventionは蘇生のためと位置付けられる場合,CT撮影後に施行されたものも含める。
     また,測定項目中の血液ガス分析から得られるbase excess, 乳酸値の測定に関しては必ずしも必須ではなく,これまで通り検査の実施に関しては各施設,担当医の判断に委ねられる(これまでの日常診療と同じ)。

    【エンドポイント】
    主要評価項目:冷汗の有無とinterventionの要否との関係,具体的にはinterventionを要した症例を陽性とした場合の冷汗の感度・特異度,陽性予測率・陰性予測率の算出とする。
    副次的評価項目として,冷汗を認めやすい部位の同定,また冷汗が従来から検討されてきた脈拍数/収縮期血圧であるShock Indexや乳酸値といった他の観察項目と同様にinterventionの予測因子となりえるか否かとする。


  3. 研究における倫理的配慮
    1. 研究の対象とする個人の人権の擁護
      保有する個人情報や検査に関する情報は研究代表者が安全に管理して,個人を特定する
      形での第三者への公表は絶対にせず,プライバシーを最大限に尊重する。

    2. 被験者に理解を求め同意を得る方法
      個々の患者様への説明と同意の取得は行わないこととする。ただし,研究の実施についての情報をホームページ上あるいは院内掲示板にて公開する。その際,研究対象者が診療記録を使用されることを拒否できるようにする。

    3. 研究によって生じる個人の不利益
      本研究は観察研究であり,その観察項目もこれまで行われてきた日常診療の範囲内であり,明らかな個人の不利益は有しないものと考えられる。


  4. データの集積法と保管
    全ての研究に関する記録は,主たる研究者の責任で鍵のかかる部署に保管する。
    別紙の通りのデータ入力シートを用いて,最終的に主たる研究者の責任で電子端末にデータを集積する計画である。


  5. 利益相反,補償等
    【利益相反】
    利益相反の問題はない。
    【補償】
    本研究は観察研究であり,被験者が健康被害を被る可能性は極めて低いため,被験者への健康被害の補償のために, 保険その他の必要な措置を講じていない。
    【手法の変更に関して】
    委員会の承認なしに研究手法や薬剤の変更は行わない。変更を要する場合は,連絡を取り,再度承認を得る。
    【研究のレビュー】
    毎年研究の進捗状況,対象件数等を報告する。


  6. 研究組織
    【主たる研究機関】
    岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 救急医学
    【研究責任者】
    岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 救急医学 氏家 良人
    【研究分担者】
    岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 救急医学 湯本 哲也
    【共同研究機関および共同研究者】
    独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 西村 哲郎,定光 大海
    独立行政法人国立病院機構水戸医療センター 土谷 飛鳥,植木 浜一


  7. 参考文献
    1)日本外傷学会・日本救急医学会:第3章 外傷と循環. 外傷初期診療ガイドライン. 改訂第3版. へるす出版, 2008 : 43-59.
    2)"冷汗"には心してかかれ! 第25回日本外傷学会報告
    3)Body R, Carley S, Wibberley C : The value of symptoms and signs in the emergent diagnosis of acute coronary syndromes. Resuscitation 2010 ; 81 : 281-286.
    4)Kaplan LJ, McPartland K, Santora TA : Start with a subjective assessment of skin temperature to identify hypoperfusion in intensive care unit patients. J Trauma 2001 ; 50 : 620-628.



データ入力項目の定義および注意事項   データ入力シート






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