日本外傷学会胸郭・肺損傷分類


胸郭損傷分類気管,気管支損傷分類肺損傷分類横隔膜損傷分類胸部損傷分類の表記


A.胸郭損傷分類

I型 軟部組織損傷 Soft tissue injury(FigI)
  a.非開放型 Closed injury
  b.開放型 Open injury
Fig1
II型 骨性胸郭損傷 Bony tissue injury(FigII)
  a.単純骨折型 Simple fracture
  b.複雑骨折型 Complex fracture
  c.開放性骨折型 Open fracture

Fig2

III型 複合損傷 Complex injury(Fig III)
  a.胸郭動揺型 Flail chest
  b.高度挫滅型 Crush injury

Fig3

Appendix:気胸,血胸,血気胸,縦隔血腫を合併している場合は,各々Pt,Ht,PHt,Mhと表記し,付加する.
1.形態分類の説明
I型:軟部組織のみの損傷をいう.
  a.非開放型は損傷が胸膜を穿通していない場合をいう.
  b.開放型は損傷が胸膜を穿通している場合をいう.
II型:骨性又は軟骨性胸郭の損傷をいう.
  a.単純骨折型は,2本以下の肋骨骨折,変位,変形のない胸骨骨折等をいう.
  b.複雑骨折型は,3本以上の肋骨骨折あるいは変位,変形のある胸骨骨折等をいう.
  c.開放性骨折.
III型:軟部組織と骨性胸郭の両者の合併損傷をいう.
  a.胸郭動揺型はflail chestを認める場合をいう.
  b.高度挫滅型は,軟部組織と骨性胸郭を合併して挫滅した場合をいう.
2.記載方法
1.左右別を記載する.左を「l」右を「r」とする.
2.損傷部位を記載する.片側の肋骨を3等分し,前壁を「Ant」、側壁を「Lat」、後壁を「Pos」とする.(FigIV)
3. 2部位以上に連続性に損傷を認めたら主部位を先にして「−」で繋ぐ.
   例 Ant−Lat,Lat−Ant(Fig V)
Fig4Fig5 
4.II型,III型は損傷骨を記載する.肋骨を「R」、鎖骨を「Cl」、胸骨を「St」とする.
5.鋭的損傷は原因を付記する.刺創を「S」、銃創を「GS」とする.
6.記載の順序
  受傷機転,分類,損傷骨,左右別,部位,Appendixの順とし,損傷骨,左右別,部位はカッコでくくる.
 例 銃創で左後壁に貫通創を負った.肋骨は損傷されていない→GS,Ib(l,Pos)(FigIV) 
   鈍的外傷で右第6肋骨前壁の骨折を生じた→IIa(R,r,Ant)(FigVII)
fig6fig7fig8
7.損傷が重複して認められたら,重症度の高い順に記載し,「+」で繋げる.
 例 左右の前胸壁を刺された.右肋骨は離断されている
   →S,・c(R,r,Ant)+S,・b(l,Ant)(Fig ・)


B.気管,気管支損傷分類

I型 裂傷 Laceration(FigIX)
a.内膜損傷型 Intimal laceration
b.全層裂傷型 Transmural laceration
fig9

 
II型 不完全断裂 Incomplete transection(Fig X)
 a.部分断裂型 Partial transection
 b.気管支鞘被覆断裂型 Transection with bronchial sheath
fig10

III型 完全断裂型 Complete transection(Fig XI,XII)
 a.単純型 Simple transection
 b.複雑型 Complex transection
fig11fug12
Appendix:食道損傷はESと表記し,付加する.

1.形態分類の説明

I型 
  Ia,内膜損傷型は損傷が気管,気管支の内膜に限局しているものである.
  Ib,全層裂傷型は全層性に損傷されているもので,主に膜様部の縦方向の損傷である.ただし,軟骨部の縦方の損傷や半周以下の横方向の損傷も本型に含める.
II 全周性あるいは半周以上で全層性に損傷されているが,気管または気管支自体の連続性は保持されている損傷である.
  IIa,部分断裂型は半周以上の横断裂である.
  IIb,不全断裂型は気管・気管支鞘被覆型が全周性に断裂しているが気管,気管支周囲組織により連続性が保持されている損傷形態である.
III 全周性,且つ非連続性に断裂している損傷形態である.
  IIIa,単純型は断裂断端が比較的整っている損傷形態である.
  IIIb,複雑型は断裂断端が複雑あるいは星ぼう状に損傷されているものであり,気管,気管支形成術が困難な症例も少なくない.

2.記載方法

1)本分類で対象とするのは,胸骨切痕部から葉気管支のとする.各部位の記述は以下の如くとする (Fig XIII).
fig13

  胸骨後気管:T,気管分岐部:C,主気管支:MB,中間気管支:IB,上葉気管支:ULB,中葉気管支:MLB,下葉気管支:LLB
2)損傷が2部位以上におよぶ場合,連続性の場合は主損傷を先にして「-」で繋げる.非連続性の場合は高度の順に「+」で併記する.
   例 C-MB,MB-C
3) MB以下は右側をr,左側をlとする.
   例 右主気管支:rMB,左上葉気管支:lULB
4)I型では主たる損傷部位が軟骨部であればcar,膜様部であればmemと記載する.
5)刺創にはS,銃創にはGSを付記する.
6)記載は以下の順序で行い,部位はカッコでくくりAppendixは「-」で繋げる(Fig XIV).受傷機転,分類(部位)-Appendix
   例:Ib(rMB-C,car)   IIb(C-lMB,car)    IIIa(rMB)
     GS,IIIb(C-rMB)     S,IIIa(rMB)-ES

fig14


C.肺損傷分類

 I型 表在性損傷 Superficial injury(Fig XV)
  a. 限局性挫傷 Localized contusion
  b. 表在性裂創 Superficial laceration

fig15   fig16

 II型 深在性損傷 Deep injury(Fig XVI)
  a. びまん性挫傷 Diffuse contusion
  b. 深在性裂創 Deep laceration
 III型 肺門部損傷 Hilar injury
  a.肺動静脈損傷 Pulmonary vascular injury
  b.肺門部離断 Hilar transection
 Appendix:
 1.肺損傷に合併した損傷,病態の表現
   食道損傷(ES)
   空気塞栓症(AE)

<肺損傷分類の解説と記載法について>
1.分類にあたっての注意

 本形態分類は,画像診断所見,手術所見,剖検所見等により最も正確に評価された損傷形態をもって行うものとする.また,気道内出血の健側肺への吸引,吐物の誤飲,無気肺等によると思われる陰影は可及的に除外されなければならない.更に,肺感染症の合併による画像所見の修飾を避けるため,受傷より72時間以内に評価されることが望ましい.

2.形態分類の説明

I型:表在性損傷
1葉内に限局する肺挫傷,最大径5cm未満の肺内血腫や外傷性肺嚢胞をIaとし,肺実質表層あるいは末梢の裂創をIbとする.
II型:深在性損傷
1葉を越えるびまん性肺挫傷,最大径5cm以上の肺内血腫や外傷性肺嚢胞をIIaとし肺実質深部あるいは中枢側の裂創をIIbとする.
III型:肺門部損傷
肺門部における肺動静脈の損傷を伴い,大量の胸腔内あるいは気道内出血をきたすものをIIIaとし,肺門部において肺実質が離断しているものをIIIbとする.
I型は保存的治療で,軽快すると思われるもの,II型は場合により開胸手術を要するもの,III型は緊急手術を要するものをそれぞれ念頭においたものである.

3.記載方法

1)記載は次の順序に従う,
受傷機転,損傷分類,(部位)-Appendix
2)受傷機転
  鋭的損傷は原因により,刺創(S),銃創(GS)と記載する.
3)部位(Fig XVII)
部位はカッコで囲む.右を「r」、左を「l」 とし,上葉を「UL」、中葉を「ML」、下葉を「LL」と記載する.
例.右上葉:rUL,左下葉:lLL
4)複数の損傷が存在する時は,高度の損傷から順に記載し「+」で繋げる.
例. IIb(rLL)+Ia(lUL)
fig17


D.横隔膜損傷分類

※横隔膜損傷分類の図の掲載はただいま準備中です。もう少々お待ち下さい。
1) 分類(Fig XVIII)
I型 横隔膜挫傷 Diaphragmatic contusion
II型 横隔膜裂傷 Diaphragmatic laceration
a. 非全層性裂傷 Non-transmural laceration b. 全層性裂傷 Transmural laceration
III型 横隔膜ヘルニア Diaphragmatic hernia
Appendix
1) 受傷機転;鋭的損傷はS (stab wound,刺創) またはGS (gun shot wound,銃創)と印し,損傷形態の最初に記載する.
2) 部位の表現と説明(Fig XIX)
両側(bil),右側(r),左側(l):左右の境は剣状突起と脊柱を結ぶ線とする.
前方(Ant),側方(Lat),後方(Pos):胸郭を等間隔で3分し,その点と脊柱を結ぶ線を境とする.
筋部(Mus),腱中心(Ten):周囲の筋膜と中心の腱膜で分ける.
縦隔部(Med):縦隔に接する部を指す.中でも心嚢と接する部を特に(Per)とする.
3) I型により横隔膜が損傷し,二次的に横隔膜が挙上するものは・phと表現する.(Fig XX)
4) II型および・型は破裂部(R)の長径を記載する. R1 < 2cm  R2 2-10cm  R3 > 10cm
1. 形態分類の説明
I型 損傷程度は軽度で,損傷形態として点状出血,血腫を指す.
II型 壁側肋膜あるいは腹膜と横隔膜損傷層の損傷(IIa型)と全層性の損傷(IIb型)に分けられるが,腹腔内臓器の胸腔内脱出はみられない.
III型 横隔膜の全層性の損傷で,且つ腹腔内臓器が胸腔内に脱出している損傷形態である.
2. 記載方法
1) 型(部位,破裂の大きさ)
2) 鋭的損傷のときには,型の前に,刺創のときにはS,銃創のときにはGSを付記.
3) 両側に損傷があるときは重症度の大きい損傷から記載し,+でつなぐ.
(例) 刺創により左側,後側方に約5cm大の破裂創があり,腹腔内臓器が胸腔内に脱出,同時に右側,前方に2cm大の全層性裂創あり. SIII(l,Pos-Lat,R2)+IIb(r,Ant,R1)


E.胸部損傷分類の表記

1.胸郭,気管気管支,肺のうち複数が損傷した場合は,重症部位から順に併記し「+」で繋ぐ.
2.その際,胸郭はTH〔 〕,気管気管支はTB〔 〕,肺はLU〔 〕,横隔膜はPH〔 〕とする.

例 @右前方からの銃創で,肋骨骨折と右肺下葉損傷を負った.
   →LU〔GS,IIIb(rLL)〕+TH〔GS,II c(R,r,Ant)〕
  Aハンドル外傷で左肋骨骨折と左主気管支断裂を生じた.食道損傷も認める.
   →TB〔IIIa(lMB)-ES〕+TH〔IIb(R,l,Ant〕)
  B墜落し胸部打撲.右Flail chestと右肺上葉の軽度血腫を認める.
   →TH〔IIIa(R,r,Ant+r,Post)〕十LU〔Ia(rUL)〕


                    

引用のお知らせ

本分類を引用する場合は、原典を
日本外傷学会胸郭・肺損傷分類委員会:日本外傷学会胸郭・肺損傷分類。日外傷会誌2000; 14: 299-306.
として下さい。